ナレッジ・マーチャント(知識商人)が USEIの未来を拓く

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サービス業における"ナレッジ・マーチャント"

朝川
サービス業において、ナレッジを持った優秀な"人才"とはどんなものか?
結城
産業そのものの意味からすると、サービス業はお客様に喜びをつくること。したがって、お客様に喜んでもらうことを自分の喜びにする、最初にそのことを持っていく。喜ばせ方も多岐にわたって多様化し、複雑化してくる。それを理解し、先取りして提供するナレッジが必要。
"人才"像は、お客様に喜んでもらうことを生きがいにできる人。
それがあれば、ナレッジが後付けでも間に合う。ドラッカーは 「マネジャーとして最初から持っていなくてはいけないものは才能ではない、真摯さである。」と言っている。サービス業に従事している人たちが持たなければならないのは、お客様を喜ばせることを自分の喜びにできるマインド。それがあれば、どんな人でも組織の中で、自分の能力を高めていくことができる。
朝川
"組織としての力"という視点でみると、ナレッジ・マーチャントの一人一人を強くするのと同時に、
"学習する組織"化していくことが大事。"学習する組織"とは自分が大事だと思うことを達成できるように自分を変えることにより、自分の未来を創造する能力を絶えず充実させている人々の集団であるが、ピーター・センゲは、このような組織をつくるためには、個人のスキルや強みを開発するだけでなく、個人の心の成長が重要だと言っている。ドラッカーのいう真摯さにも一脈通じるかもしれない。サービス業は、無形財を売っておりそれ自体は見えない。結局、顧客は可視化されたサービス提供者を見て、どの店に行くか決める。サービス提供者とは、企業であり、店であり、最終的には従業員。
だから、従業員が真摯であることが重要。

結城

結城
なるほど。
朝川
ドラッカーは事業に5つの指針をあげていて、それは"マーケティング""イノベーション""経営資源""生産性""社会的責任"。自分の仕事を増やして生産性を上げるという考えはなかなか持てないが、生産性の目標は当然大事なことで、資金や人才をどう活かしていくか、生産性というのは難しいが中心となるコンセプトだと話している。知恵と工夫と創造性によって生産性を上げられる。アイデアを出した人が、会社で認められ評価され、会社ごと大きくなるのは良いこと。
"やらなくていいことはやらない。""誰も聞いていない会議は開かない""誰も読まない報告書は書かない。"この3つの実務的な提案の仕方だけでずいぶん変わる。今あるものを否定して、もっといいやり方がないかと考えることが、サービス業における輝く"人才"の一つの方向性ではないか。本当に必要かということを疑問に思う気持ちは難しいが、そういうことを言ってくれる組織にしたほうが、結果的に良い会社、必要とされる会社ができ上がると仮説を立てている。
結城
今のはマネジメントの根本的な話で、組織をつくって運営していくというマネジメントの考え方が、戦前から戦後まであった。日本の大企業や官庁を含めて、そういう教育がされていて、今でも日本の中で定着している考え方である。だんだん組織がうまくいかないという現象が出てきて、正しいマネジメントの考え方が出てきた。ドラッカーはそういうことの集大成を言っている。人をどう活かすか、今の最新の考え方はチームワークである。アメリカのホールフーズマーケットでは、ストアディレクターはいるが、部門長はいない。部門のチームリーダーがいる。チームリーダーを指導する教育係がいて、チームをどうマネジメントしていくかという体系で会社運営している。チームには対立軸が必要で、徹底的に議論し、チームの中で決めていく。会社全体では決まったポリシーがあって、ガイダンス・経営スタディがある。それをそれぞれの店舗のそれぞれのチームのチームリーダーがまとめていく。そういうマネジメントが新しく登場していて、特にサービス業には必要である。現場にいる人達が知恵を出し、話し合いをし、より良いものをつくっていく。
チェーンストアでもバラバラになることはなく可能である。
朝川
ホールフーズの仕組みは、仕組みを感じさせない仕組み。成長して努力した人間には必ず未来がある。自分が自発的にやっているように、上手に仕組みとして設計されていると感じた。ああいった組織は日本の中にはあまりない。
結城
日本の小売業、サービス業で皆無とは言わないが、あまりない。だから、規模の問題ではなく、マネジメントの体制とか会社全体の考え方をつくったら、むしろ300店あるよりも5~6店のほうがやりやすい。すぐではないが、そういう時代になってきている。現在、規模の大きい会社ほど転換が難しい。レガシー問題が残っていて、それを引っ張っていくしかない。
朝川
物のレガシーもあるが、人間のレガシーも。特に昔の成功体験に縛られたレガシーは、小さな会社でも昔ながらの人、つまり変化を受容しない人は一定割合で必ずいて、一緒に苦しい時からやってきたので、できれば一緒にステップアップしていきたいけれど、そうじゃない人も残念ながらいる。
それはもしかしたら、経営者の責任なんじゃないかと思ったりする。
結城
たいてい、その問題に実際に遭遇したら、若い経営者や幹部は苦しむが、その問題を解決した人たちは、共通して「そういった人達もいたけれども、自然にそういう人たちは辞めていった。」と同じことを言う。ユニクロの柳井さんなど、そういう問題を解決した人たちはみんなそう言っている。
朝川
意思決定の鋭さ、悪役になってでもやり抜くんだという思いがある。そこまでは想像できるけれども、本には書いてないが、できればみんな引き上げたかったなという思いも無くしてはいけないことだと思う。辞めたい人は辞めればいいという理論ばかり突きつめていくと、昔のアメリカのように合理的ではない人は辞めていけという歪んだ形が将来できてしまうのではないかと思えて、常に自分の中で謙虚さを保つために、反省すべきことはしないと、と思う。
結城
その考え方を抽象化していくと、考え方が合わない人達は自然に辞めていく。だから、考え方を鮮明にしないといけない。
朝川
会社として社会に何を残したいのかというところから始まると、本質論は大事だと思っている。情の部分はもちろんあるが、必要とされる会社をつくりたいとなると、まだまだ、私たちの会社は弱点がいっぱいある。企業が生き残るためにはどうすればいいのか、本来この会社は何のためにあるのかと考える。
考え続けることが結城先生から教わった最大の資産であると思っている。考えた時に目の前の欲に目が眩んで、間違った道に進んではいけない。目標に優先順位をつけるということは、結城先生もドラッカーも言っている。その中で、私たちは会社を大きくする、店舗を増やすことで、その地域地域に必要とされるお店をつくる。そのためには、いろんな出会いと別れを繰り返さないと会社は大きくならない。情の部分でも感じざるを得ない。
会社の目標は、利益やメジャーになることではなく、何でその企業は存在しているかということの本質が大事。そこを考えられる人が、サービス業で必要な"人才"であって、必要とされる会社に向かって、このことは本当にいいことかと振り返ることができる人間は、サービス業にとって宝であると思う。今回、結城先生と対談するにあたって、色々なことを考えたが、改めて自分の中に出てきた言葉や、読み返した本の中で、最終的にそこに行き着くんだなと考えさせられた。対談する前までは勉強が足らなくて、私にとっては何時間も圧縮して勉強しなくてはいけない中で、いろんなことが出てきたということが、今回は本当にありがたかった。
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